不倫慰謝料請求の示談書の書き方

文責:所長 弁護士 湯沢 和紘

最終更新日:2025年04月15日

1 適切な示談書を作ることはとても大切です

 不倫慰謝料の請求をし、話し合いがまとまった場合、実務においては示談書の作成は必須となります。

 なお、示談は法律的には「和解」であり、示談書も「和解書」や「合意書」といった名称であることもあります。

 当事者間での取り決めを客観的に確認できる形にすることで、揉め事が蒸し返されることを抑止し、仮に後日訴訟を提起しなければならなくなった際には示談書を証拠として用いることができます。

 示談書には、主に次の事項を記載します。

 ①不貞行為の存在を確認する(認める)こと

 ②慰謝料(解決金)の金額・支払期限・支払方法

 ③秘密保持など慰謝料支払い以外の遵守事項

 ④(不倫相手の場合)求償権の放棄

 ⑤清算条項

 また、後日示談書の有効性が争われることを防止することや、慰謝料が支払われない場合に備え、次の点にも留意します。

 ⑥示談が成立した日付を記入する

 ⑦当事者の署名と押印(実印を用い印鑑証明を付ける)

 ⑧強制執行認諾文言尽き公正証書を用いる

 以下、それぞれについて説明します。

2 不貞行為の存在を確認する(認める)こと

 まずは、不倫慰謝料の発生原因である不貞行為が存在したことを、当事者間で確定させます。

 確認の対象となる不貞行為は、不倫をした者の氏名、および不貞行為をしていた期間などを記載して特定します。

3 慰謝料(解決金)の金額・支払期限・支払方法

 慰謝料の金額と、いつまでに支払うか、およびどのような方法で支払うかを明確にします。

 分割支払いとする場合には、何回に分割するか、毎月いくらをいつまでに支払うかを記載します。

 支払いの方法は手渡しや銀行振込みとすることが多いですが、銀行振込みにする場合には、振込先口座と振込手数料の負担者を記載します。

4 秘密保持など慰謝料支払い以外の遵守事項

 不倫をしていた事実や慰謝料の金額を当事者以外の人に知られないようにするため、守秘義務を定めることも多いです。

不倫の示談における守秘義務については、こちらで解説しておりますのでご覧ください。

 そのほか、不倫をした配偶者と不倫相手との間で連絡を取り合うことを禁止することなどを記載することもあります。

5 (不倫相手の場合)求償権の放棄

 不貞慰謝料は、不倫をした配偶者と不倫相手のいずれに対しても全額の支払いを請求することができます。

 ただし、両者合わせて不倫慰謝料の金額に達するまで支払えばよく、かつ両者間には負担割合があります。

 負担割合を超えて支払った側は、もう一方の加害者に対して負担割合を超えて支払った部分を請求することができます。

 これが求償権です。

 例えば、不倫慰謝料が100万円、不倫をした配偶者と不倫相手との負担割合が50:50、不倫相手が100万円を支払ったという場合、不倫相手は不倫をした配偶者に対して50万円の支払いを求めることができます。

 不倫をされた配偶者と不倫をした配偶者の生計が同一である場合、不倫相手に50万円を支払うということは、実質的には不倫慰謝料の半分しか支払いを受けられていないのと同じです。

 そのため、求償権を行使しない旨を示談書に記載することも多いです。

6 清算条項

 示談後の問題の蒸し返しや、不倫に関連する要求が繰り返されることを防止するため、示談の対象となった不倫に関しては、示談書に記載した権利義務以外が存在しない旨を記載します。

7 示談が成立した日付を記入する

 慰謝料の支払い期限や、消滅時効との関係から、示談が成立した日を明確に記載します。

8 当事者の署名と押印(実印を用い印鑑証明を付ける)

 示談は契約の一種でもありますので、当事者が合意をしたことを明確にするため、示談書に署名と押印をします。

 後日、示談書が偽造であるという主張がなされることを防止するため、押印には実印を用い、かつ示談日に近い日付で発行された印鑑証明書を添付するとよいです。

 示談書は当事者の人数分作成してそれぞれが保管しますので、割印も忘れないようにしましょう。

9 強制執行認諾文言付き公正証書を用いる

 示談書を作成しても、約束通りに慰謝料が支払われないということもあります。

 このような場合、示談書を証拠として訴訟を提起し、確定判決を得たうえで強制執行をすることになります。

 ただし、強制執行認諾文言付き公正証書で示談書を作成している場合には、判決を得ずに強制執行をすることができます。

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